はばたき学園を卒業して、零一さんとお付き合いを始めて数ヶ月。

 何かを忘れている気がする。




【大切な事】




今日は零一さんの家で、零一さんに手料理を作る約束。
わたしは零一さんの家に向かう途中、ふと何かを忘れている事に気がついた。

「零一さん、わたし、何か忘れている気がするんですけど…」

料理を作っている最中、零一さんに相談してみた。
でも零一さんは、何の事かわかるはずもない。

「何の事だ。」
「ここに来る途中に、何か忘れてる気がしたんです」

もう一度わたしが言うと、零一さんは片眉をぴくりとあげた。

「何を忘れているのかさえ覚えていないのなら、たいした事ではないだろう。そ
れよりも、鍋が吹いている。もっと集中できないのか?」
「え?あ!本当だ!!――すいません」
「謝るのなら、始めから集中しなさい。」
「…はい」

怒られてしまっては、これ以上話をする事もできない。
吹いていた鍋の火を弱め、わたしは料理に集中した。

――でもどこか、はぐらかされた気がする。
完璧主義の零一さんが、何を忘れてるのかもわからないのに、たいした事ではな
いと決めてかかっている。
わたしがわかってないだけで、零一さんはそういう人なのかもしれないけれど…。
それでも少し、負に落ちない。



数十分で料理は完成した。
わたしはできた料理をお皿にのせて、テーブルに運んだ。

ソファーに掛けている零一さんの様子を見ると、零一さんは何かを考え込んでい
る様だった。

「零一さん、できましたけど…?」
「――…そうか」

わたしが声をかけると、零一さんはソファーから立ちあがり、食卓テーブルへと
移動した。



――なんとなく、気まずい食卓。

いつもなら、少しくらいは食事中でも会話する。
しかし、今日に限ってこの沈黙。
先程の零一さんの様子といい、なんだかおかしい。

「あの…さっきは何を考えてたんですか?」

何か会話をと、わたしは思いきって尋ねてみた。
でも、零一さんの答えは――。

「私が何を考えていようが、君にそれを教える義務はない」
「……はい」

正直、ちょっと傷ついた。
あんまり激しい馴れ合いを、零一さんが好きではないのは知っている。
でもだからって、今のは少し酷いと思う。

目じりに熱いものがこみ上げてきた。
気付かれない様に、わたしはそれをぐっとこらえる。
でも、こらえればこらえるほどにこみ上げてきて…。

「――すまなかった」

聞こえたと同時に、目の前にはハンカチが差し出されていた。
それを受け取ると、こらえていたものが溢れてきた。

零一さんは、わたしが落ちつくまで黙って待ってていてくれた。

「いきなり泣いたりして、スイマセンでした」
「いや…私にも否があった」
「…で、何考えてたんですか?」
「…………。」

再度の沈黙。

「…もういいです。それより、ご飯、冷めちゃいましたね」

そう言って、わたしは冷めきったご飯を暖めなおした。
その後は、何事も無かったかのように食事を続けた。




「零一さん、わたしそろそろ帰りますね?」

食事の後、片づけを済ませ、少し雑談をした後、わたしは言った。

「そうか、なら送ろう」

「――――!!」



―――「先生、一緒に帰りませんか?」
―――「問題ない。君の家は私の帰路にある」



「思い…出し、た」

思ったと同時に、わたしは声に出していた。
それを聞き、零一さんは何とも言えない表情をした。

「零一さんの家って…わたしの家と方向…違う…」

わたしが言うと、零一さんは目線をそらした。

「零一さん、もしかして…わたしが『何か忘れてる』って言った時から気付いて
――?」

更にわたしが問うと、零一さんは顔を赤くして、コホンと咳払いを一つした。



暫しの沈黙。
しかし今度は、先程の気まずいものではない。



「零一さん…」

沈黙を破ったのはわたしの声だった。

「…何だ」

微妙にぎこちない会話。
でも、もちろん気まずいわけじゃない。
もしかしたら、零一さんは気まずいかもしれないけれど。

零一さんの顔を覗うと、まだ頬が少し赤い。
多分、照れているのだろう。



「あの…もう少し、ここに居てもいいですか?」



「――無論だ」



忘れていたのは小さな事。

零一さんの言う通り、たいした事ではないけれど。

たいした事ではないけれど、あくまでそれは世間体。

わたしにとってはたいした事。

忘れていたのは――大切な事。





END



++++++++++

アトガキ

これは私がもしそうだったら嬉しいなと思って書いたものです。
でも…ときめき状態ならともかく、出会って間もない、もしくは嫌いな生徒に、
ヒムロッチがそんな嘘つくわけないでしょうね…(^^;)
しかも主人公ちゃん、こんな問題提起して、この後一体どうしたのでしょう…。
あぁ、こんなアホなもん押し付けてスイマセンちかげさん。

―晃―




晃さんから戴いた、『ときめきメモリアルGirl's Side』小説です!
またまた晃さんがリクエストに答えて下さって氷室先生×主人公ちゃんモノを書いて下さいました!
ヒムロッチとのラブラブなその後!!
何だか新婚さんな感じの2人にはにゃ〜ん(*´∇`*)ですvv
こういう『新婚さんいらっしゃ〜いvv』みたいなの大好きです!(笑)
私的に、手料理を作りに先生の家ヘ…というのは萌えシチュエーションです!!(力説)
あ〜も〜初々しいですな〜vv(*ノノ)キャv
晃さん、素敵萌え〜vvなときメモ小説ありがとうございますvv


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