『英雄伝』



「レオ!早くおいでよ」
「グルル・・・」

そこには2つの影があった。
1つは少女、もう1つは獣。

「あっついねー。レオも暑いでしょ。体中、毛皮のコートだもんねー」

少女の方は、歳はおおよそ15程。髪は栗色をしていて、背中の中ほどまで伸ば
した髪を、ポニーテールでまとめている。
もう一方の獣。
こちらは獅子で、鬣(たてがみ)は瞳とそろって、見事な黄金(きん)をしてい
た。
普通の獅子よりひとまわりほど大きく、そのせいか、小柄な少女は余計に小さく
見える。

「お昼には街につくかな。――ってあれ!!」
少女は前方に倒れている人を見つけた。
駆け寄って声をかけてみる。
「大丈夫!?」
男はかすかに声をだした。
「う・・・」
それをきいて、少女は無事を確認し、安堵の息をもらした。
「――はぁ、よかった。起きて」
少女が言うと、男は少女に何かを伝えた。
「――――。」
「え?」
少女が聞き返すと、男はもう一度、今度ははっきりといった。
「腹・・・減った」

 辺りに、沈黙という言葉がおしよせた。

少女はこれ以上無いほどにほうって行きたかったが、男が腕をしっかりつかんで
いるのでできなかった。
「レオ・・・どうしよ・・・」
すると、レオと呼ばれた獅子は身を低くした。
 どうやら乗せろということらしい。
 少女は男をレオにのせた。



――サンブリックシティ――それが街の名前だった。

「あたしはリル。リル=ヴェッツィ。こっちはレオ」
目の前で9皿目の料理に手を伸ばす男に、少女は名乗った。
男も一時手を休め、名を名乗る。
「・・・オレはリューグ=ガンナー」
「で?どうしてあなたはあんな所に?」
リルはリューグに問いかけた。
「・・・魔獣に襲われたんだ。それも一匹じゃない、二十はいた」

 魔獣というのは、人の負の感情から生まれるという、不思議な能力を持つ獣だ

 火を吹いたり、風を起こしたりと、その能力は様々で、普通の者ならまず殺さ
れる。

「へー、よく無事だったねぇ。相当強いんだ」
「あぁ、一応な。――ところで、聞きたいことがある」
リューグは真剣な面持ちで言った。
しかしリルはそれを見ようともしせずに言った。
「却下。それじゃあ、私達はもう行くから」
 
 そしてリルはレオをつれて街をでた。



「もう、どこまでついてくる気?」

 リルは街を出て、森を歩いていた。

リルはずっとついてくるリューグに、半ばキレ気味に言った。
「オレはお前に用があるんだ」
リューグはリューグで、いい加減にしてくれといったかんじだ。
リルは足を止め、リューグの方に向き直り、きっぱり言った。
「聞きたくない」
「ちょっと待て!話くらい聞け!」
「・・・いやよ」
そうつぶやいたリルの瞳は、少しどこか儚げだった。
それを見て、リューグは罪悪感のようなものを覚えた。
「なんでそんなに嫌がるんだ?話くらい、聞いても良いだろ!?」
「いやよ!!」
リューグはリルの肩をつかもうとした。
しかし、それはレオによって拒まれる。
「グァアァアアアア!!!!」
レオがほえた。
リルの前に立ちはだかり、リューグをにらみつけている。
だがリューグは引こうとはしない。
「守ってるっていうわけか?けど、あいにくこっちもその程度で引き下がるわけ
にはいかないんでね!!どけ!オレはそいつに話がある!!」
リューグは叫んだ。
叫んだ瞬間、レオはリューグに飛びかかろうとした。
・・・しかし、できなかった。
「だめぇ!レオ!!」
リルはレオにしがみついた。
 ――レオは止まった。
リルはレオの鬣に顔をうずめた。
「レオ・・・ごめんね、守ってくれたのに・・・ありがとう。」
リルはゆっくり立ちあがり、静かに口を開いた。
「――わかった、話を聞くわ。・・・暗くなってきたし、今日はもう野宿しまし
ょう?」



「少し、散歩してくる。あとでちゃんと話聞くから・・・」
リルは言って川へ向かった。

――静かな、川のせせらぐ音だけが、響いていた。

「レオ、さっきはごめんね。」
「グル」
「リルが悪いんだよ。話、聞かなかったから」
すまなさそうにリルが言うと、レオはリルの膝の上に頭をのせた。
レオの優しさを感じ、リルはレオの頭をなぜた。
するとレオは気持ち良さそうに目を細めた。
「・・・ねえ、私人に見られるの好きじゃない」
先程とは違い、リルはきつく言い放った。
「リルっつったっけ?」
言いつつリューグは茂みから出た。
「気安く呼んでほしくない。あとでちゃんと話聞くって言ったでしょ。どうして
来たの?」
リルはいった。
冷たい口調で。
「別に今でもいいじゃねーか。それに、なんで話を聞きたくないんだ?」
「言いたくない」
「なんでだ?」
リューグが問うと、きつかったリルの口調が、突然か細くなった。
「いやよ・・・どうせ・・・」
その声はかすかにふるえている。
「――どうせ、勇者の事でしょ?」
「―――っ!!」
リューグは言葉をなくした。
その通りだったから。
何か言うべきなのに。
走り去るリルを、呼びとめるべきなのに――



――耐えられなかった。
あの場にいる事ができなかった。
リルは走った。
特にどこかへ行くわけではなかったが、リューグの前から一刻も早く立ち去りた
かったのだ。
「グゥウ!」
ふいにレオがうなった。
辺りを見まわすと、怪鳥がそこらじゅう・・・いや、怪鳥に囲まれていた。

怪鳥というのは、数ある魔獣の種類の内、鳥の事をいう。

「――っ!数が多い!」
リルは腰の剣に手をのばした。
怪鳥の数はざっと100。
尋常ではない。
しかし今は戦うしかない。
リルは飛びかかってきた怪鳥の首をおとした。
それを合図に、戦闘は始まった。
一斉に、怪鳥がくちばしをつきだして襲ってくる。
連携プレイができるようで、逃げ場がない。
だがそれはリル一人ならの話。
レオはリルに向かう鳥に、横から飛びかかる。
それで2匹が地におちる。
喉もとを噛みちぎり、息の根を止めてから、背後に迫っていた別の怪鳥を後足で
蹴りとばす。
リルはレオがつくった逃げ道から出て、目の前にいた怪鳥を刺す。
すぐに剣を引きぬき、頭上の怪鳥の翼を切り取った。
ふりかえりざまに右に迫っていた怪鳥も薙ぐ。
瞬間、かがんで翼をよける。
その翼で、リルの後ろにあった木はたおれた。
「レオ!逃げて!」
リルは叫んだ。



異様な雰囲気に我に返ったリューグは、リルの後を追って我が目を疑った。
100程ものの怪鳥が、リルとレオを襲っているのだ。
リューグは剣の柄をにぎる。
参戦しようと駆け出そうとした瞬間。
「レオ!逃げて!」
リルが叫んだ。
「犠牲になる気か!?」
つぶやいたリューグの声は、もちろんリルには届かない。
そしてさらに次の瞬間、リューグはさらに驚愕した。
逃げてきたのだ。
レオが。
「お前!見捨てる気か!?」
言葉が通じるかはともかく、リューグは思わずレオに言った。
見かねてリューグが駆け出した。
だがそれもレオに拒まれてできなかった。
リューグには、見ている事しかできなくなった。

と、一気に怪鳥がリルに襲いかかった。
今はリル1人、逃げ場がない。
――リルの姿は怪鳥に飲み込まれ、見えなくなった――

「リル!」
リューグの呼びかけに、返事は無かった。
だが、代わりに光が。
数多くの光の柱が、怪鳥達にふりそそいだ。

『ピシャァア――・・・ドゥン!!!』

光と共に、地がゆれ、音が鳴った。

リューグやレオの目の前に、雷がおちた。

――怪鳥は、全滅した――




「気付いてたんでしょ?」
焚き火に木をくべつつ、リルが口を開いた。
「勇者って事か?」
リューグがいうと、リルは静かに頷いた。

――大昔に、魔獣を操る力を持ち、その力を使って世界を支配しようとする者が
いた。
それを、黄金の獅子とともに阻止したのが、ローヴェン=ヴェッツィーナ、今で
いう勇者である。
ローヴェンは不思議な力を使い、世界を支配しようとする者を倒し、世界に平和
をもたらしたのだ。
後に勇者とたたえられ、伝説として語り継がれていたのだが――

「そう。私は、ローヴェン=ヴェッツィーナの子孫。」
リルは大きく息を吐き、話し出した。

子孫と言っても、すべての者が力を持って産まれるわけではない。
世界が危機に瀕した時のみ、力を持った勇者が産まれる。
そしてリルはその力をもった勇者なのだ。
先程も、力を使って怪鳥を倒したのだ。

リルは勇者という事を隠している。
なぜなら、勇者というだけで、無理難題をふっかけられるから、だ。
勇者だからと、なんでもできるわけではないのに。
だからリルは、素性を隠している。

「――ってわけ。ちなみに本名はアーリル=ヴェッツィーナ」
「だからオレの話を聞くのが嫌だったってワケか。」
言ってから、リューグはふと気になった事を問う。
「でも、なんでオレが勇者の話するってわかったんだ?」
するとリルは、少し考えるような素振りをしてから、人差し指を立てて答えた。
「私が自己紹介した後、あなたが少し黙ったから。あぁ気付いたんだ、と思って
、一刻も早く別れたかったの」
確かにリューグはその時に気付いた。
しかしそれだけでわかるとは・・・。
「あの『間』だけで気付いたのか!?」
リューグが叫ぶと、リルはにっこり笑って頷いた。
「えぇ。・・・ところでリューグの言ってた話って、は私が勇者だって事を確か
めるだけだったの?」
リルが言うと、リューグは突然真剣な顔になった。
「いや・・・オレは、世界の危機を知らせに来た――」



――この後、勇者アーリル=ヴェッツィーナによる冒険が始まる。
そしてそれは後に、再び伝説として、語り継がれてゆくのだろう――



〜End〜






晃さんから戴いた、ファンタジー小説です!
実は晃さんが私の我侭なリクエストに答えて書いて送って下さったのです〜vv
こんな私ですが、昔はファンタジー大好き人間で・・・
(今はすっかりBLにハマッて・・・(爆))
そんな中でも、女の子が勇者〜〜!とか・・・
およそ強そうには見えない子供や女の子が実はめっちゃ強いとか・・・
そんなギャップが堪らなく好きなんですv
そしてレオちゃんv(ちゃん?)
女の子プラス大きな獣っていう組み合わせは大好きですっ♪
女の子の勇者・獣と私のツボポイントが盛り沢山な小説で、とっても楽しませて頂きましたv

実はこの小説、元はノート1冊分くらい長いそうなのですが、私に送って下さるにあたり、短くまとめて下さったそうなのです(ほろり)
晃さん、本当にありがとうございます!


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