きっかけはそんな事
作桜ありま




「氷室先生・・・遅いなぁ」
少女は腕時計をちらちらと見ながらそう呟いた。
と、言ってもそれは責めるような口調ではなく、とても心配げな口調。
それもそのはず、規律をこよなく愛するそんな氷室零一の姿が待ち合わせ時間を過ぎても現れないと言う事は、何かあったのだろうかと心配になるのは当たり前だ。
いつもは、少女より早いか・・・それとも時間キッカリかそのどちらかのパターンしかなかった。
新はばたき駅のコンコースをいったりきたりしながら、少女は過ぎる時間と比例して不安も重くなる。

先生から誘って貰えたあまりの嬉しさに(社会見学といえど)、カレンダーや手帳に氷室先生との予定を書き込んでいた自分が待ち合わせ場所と時間を間違えているなんて事は無いと自信を持っていたけれど。
電話は繋がらなくて・・・
と、言う事は先生が事故に巻き込まれたのかも!しれなくて・・・
と、ぐるぐると思考が回って悪い方向へといってしまう。

そんな少女は、泣きそうな顔に自然となってしまっていた。
すると、後ろから声を掛けられる。

「カノジョ、彼氏にフラれたの?」
「?」
ナンパの王道な声のかけ方。
しかし、少女は生れて初めて声を掛けられたので自分がナンパされているとは夢にも思っていない。
「い、いえなんでも無いです」
別に、氷室先生にフラれた訳ではないので、少女は律義に返事を返すのだが、声を掛けた男はていよくあしらわれたと思い、しかし反応が有った事でめげずに押してくる。
「悪い彼氏だな〜どう?これから一緒にお茶でも飲みに行かない?」
そしてやっと、自分がナンパされているという事を理解する。
氷室先生は少女の彼氏では勿論無いがここで「彼氏」ではないというと、男の押しが強まりそうで心の中で氷室先生に謝りながらつつ少女は男に告げる。
「私、彼氏を待っているのでごめんなさい・・・」
先生を「彼氏」といって少女は顔を赤くした。
「でも、君、さっきからここにかなり居るよね?そんな悪い彼氏なんかほおって置いてさ、行こうよ」
そんな様子に、男はまだ脈が有ると思ったのか、なおしつこく迫ってくる。

どうしよう・・・氷室先生助けて!!

生れて初めてのナンパに、おっとりした性格の少女は凄く困った。
刹那。

「断る」

とても不機嫌な・・・低い声が聞こえて少女と男が振り返ると、そこには氷室先生がいつもと相変わらずのスーツ姿で立っていた。

「ひ・・・」
氷室先生!と、安堵の為に少女は呼びかけそうになって目の前のナンパ男に「彼氏」といってしまった事実を思い出しはっとした。
「何だ?アンタは」
男は、ナンパを邪魔されて、不機嫌そうに氷室先生に詰め寄ろうとする。
ここで、「先生」といったら氷室先生に迷惑が掛かるかもしれない。
またもぐるぐる回転してしまう頭で少女が口走ったのは・・・

「零一さん!」

先生でも、氷室さん、でもヒムロッチでも無く
・・・零一さん

れいいちさん???
一瞬氷室先生の顔がなんとも言えない表情になる。
「え、もしかして君の彼氏?」
男は、この目の前の可愛らしい少女の待ち合わせの相手が、まさかきっちりスーツを着込んだ社会人とは思いもよらずにたじろいだ。しかも妙な迫力がある。
少女は、まさか氷室先生の目の前で「はい」と言葉にするのも気が引けて、真っ赤になる。しかし男にはそれで十分だった。
「へぇ、彼氏が来たんだったら、良かったねじゃ俺はこれで・・・」
そういってそそくさと逃げ出す男。
氷室先生と二人残された少女に残ったのは、先生の重い沈黙。
氷室先生の口が開くより早くあわてて少女は言った。

「あの、すみません、ナンパされてあの人待ち合わせの相手が彼氏だと誤解してて・・・それで「先生」っていったら話がややこしくなってしまいそうだったので、名前を・・・私なんかの、かっ、彼氏なんていってしまって気分を害してしまったと思いますけどすみませんっ!」
一気にまくし立てて、呼吸困難に陥りそうなほど肺の中の空気を使い果たす。
こんなに勢い良く話したのは生れて始めてかもしれない。
「・・・・・・」
そんな少女を無言でみつめる氷室。
どんな時でも冷静で沈着。
その静かな瞳に我に返った少女は思い切ってこういった。
「やっぱり、は、反省文ですか?」
「・・・いや、以後気をつけるように」
意外と、口調は静かで怒りの片鱗はない。
「はい、これからは先生の事を名前で呼ぶなんて失礼な事はしませんから、安心して下さい」
「・・・そうではない」
強い否定の言葉。
「?」
「君が私を名で呼ぼうが私は一向に気にはしない、それよりあのような若者には・・・いや、これからは私も極力気をつける」

え、それって・・・

最後の方は、照れたように咳払いを一つ。
「以上、行くぞ!」
風を切るように目的地に歩き出す。
「は、はい」
それを慌てて追いかける少女。

先頭を歩く氷室の複雑なその顔は、少女が氷室零一の事を名前で呼ぶ日はそう遠くない事を暗示させるようなものであった。




●後書●

遅刻した事は謝らないんだね先生、理由も説明ないし・・・と突っ込みを入れながらツツ(^_^;)
氷室先生十六回目のプレイで初めてナンパを断る氷室先生を見て(十六回もしてやっと見れたと言う・・・確率の悪さ)・・・感動した妄想が膨らんで書いたお約束なお話です。・・・こんな事でもないと、氷室先生は名前で呼ばせてくれないんだろうなと思って書きました。(*´∇`*)
とりあえず、私が考える二人の呼び名が変わるきっかけはこんな事、だったりします。

それにしても呼び名って氷室先生のはすべて怒られそうに感じてしまい、攻略本買うまではずっと「氷室先生」の呼びかけのままでした。零一先生と呼びたかったです・・・遠い目。
そして、またまた似非な氷室先生でごめんなさいなちかげ様に捧げますvv


桜ありまさんから頂いた『ときめきメモリアルGirl's Side』の小説です。
な、なんですと!?
氷室センセイにナンパを断るイベントがあったのですか!?
・・・くぅ!!知らなかった!!(涙)
私もまだまだ甘チャンですね・・・( T∇T)
まだまだ氷室センセイ初心者!
桜さんの情熱(16回プレイ)に完敗(乾杯?)です。
「れいいちさん???」と言われ、なんとも言えない顔をする氷室センセイがかわゆいvv
主人公ちゃんも相変わらず可愛いし、その光景が目に浮かぶようです…(*´∇`*)

桜さん、いつも素敵な小説ありがとうございますv
私もヒムロッチナンパ撃退イベントを見るべく努力ですねっ!!┗( ̄∇+ ̄)┓

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