小春日和のバレンタイン
作桜ありま




「ま・・・まずそう」

そう少女が呟いたのは、二つの意味を持っていた。

ひとつは「不味い」
もうひとつは「拙い」

少女の目の前にあるのはトリュフであったハズの・・・物。
今日はバレンタインデー。
友達に既製品のチョコを配って、さあこれから本命の先生へ!
と意気込んだ私は、真っ青になった。

今日は暦の上では、寒い寒い二月。
のはずだった。
にもかかわらず。
温暖化の影響なのか、春の陽気を保っている。
そして、手にもっているチョコレートは・・・何時の間にか形を変えていた。
十個の球体であった筈の球体は連なり、その形は既に一つとなっていた。
つまり、この突然訪れた小春日和の暖かさで、チョコレートが溶けてそして固まったのだ。
・・・勿論その形はかなりのいびつで、見ただけでとても不味そうという印象を人に与える。

「ど、どうしよう・・・」
気温は春のような温かさなのに、私の心は雪が降る前の底冷えだ。
泣きそうになりながらも、私は職員室の廊下から、回れ右・・・をした。
完璧を目指す先生にこんなチョコレートなんて渡せない。
「エルニーニョの馬鹿・・・」
ぼそりと呟いて、一歩足を踏み出したその瞬間。人にぶつかりそうになる。

「前を向いて歩きなさい」
「ひゃ、ひゃい!!」
・・・あまりの驚きに変な返事をしてしまう。
見上げるといきなり現れた、今いちばん会いたくて会いたくない人ナンバーワンの氷室先生。
百九十はあろうかと思われる長身に見下ろされて、慌てて私はチョコを隠した。
勿論氷室先生は、そんな私の不審な動作を見逃さない。
「何を隠した?」
眼鏡の奥の切れ長の瞳を不機嫌そうに曇らせる。
「べ、別にな・・・・なな、何もありません」
その返答を聞いて、眉を不思議そうに歪めた。
が、身長差と言うものは、死角をなくしてしまうものらしく先生はそのラッピングと大きさからチョコであると推測したらしい。
「何もそんなに驚く事はなかろう、チョコレートなら職員室脇のチョコ受けつけ箱に入れておきなさい」
「いえ、これは氷室先生に作って・・・」
といって、しまったと言う表情を浮かべた。
先生に他の先生にあげるとは思われたくなかったとはいえ。
・・・なんて危険極まりない事を言ってしまったんだろう。
「・・・まったく君は、チョコ受け付け箱に入れなさいといっているだろう」
「はい」
そういった私は内心ほっとしていた。
このまま、チョコ受付箱に入れる振りをして持ち帰れば、危険な事になるのは避けられる。
チョコ受付箱には膨大な女生徒達からのチョコレートがひしめき合っていて、自分のチョコひとつなくてもどうせ気付いてもらえないに違いない。
そう考えると、とっても悲しい事だけれど。

先生の横を通って、私はチョコ受付箱へと歩いていこうとしたその瞬間。
「待ちなさい、まず、私が点検する」
「え?」
「・・・私に作ってきたのだろう?」
私のものすごい落ち込みように勘違いし、何か悪いと感じ取ってくれたのか先生は意外な事を言ってくれた。
本当なら、天にも昇るほど嬉しい出来事だろう。・・・チョコレートさえ溶けていなければ。
ここまで言われてしまっては、差し出すしかない。おそるおそる先生にチョコレートを差し出す私。
どうしても答えのわからなかった数学の宿題を、差し出すときよりも緊張するこの一瞬。

包み紙を手に取った先生の表情は、生涯忘れられないものになるほどの苦渋の顔。
芸術に造詣深い先生からみて、美的範疇を越えすぎている見た目。
こんなものを、私に・・・というような。

「教員一同の福利厚生の保全の為、このチョコを受付箱に入れることは禁じる」
そういって先生がチョコを持っている指が震えてるのは気のせいではないだろう。
「はい」そう言ってうなだれて、私はチョコを突っ返されるのを待った。
しかし、先生はチョコを手に持ったままだ。
「私宛てのチョコの所為で他の教員達に責を負わせる事は本位ではない・・・したがって、これは私が処分する」
そう呟いた先生がチョコを置いた先は、ゴミ箱の中ではなく先生のポケットで。
「・・・?」
「エルニーニョの所為ならば、私一人が危険を冒しても悪い賭けではないだろう」
「!!!」
ふふ、と幻聴が聞こえそうな程。
そう告げる顔は、不適な笑み。
お正月一緒に行った初詣で大吉を引いて、今年の運を試してみると宣言した時の・・・しかし、どこと無く嬉しそうな表情。

「あ、ありがとうございます」
私は史上最低なチョコを、受け取ってもらえて心の温度が上昇する。
先ほどの心の寒さはどこかに行ったように、まるで春の温かさ。

次の日、無事に出勤した先生。
・・・賭けは先生の勝ちだったらしく。

「味は悪くなかった」

との、お褒めの言葉も頂いて、私の小春日和は長く続く事になったのだった。




=*=後書=*=

最悪な本命チョコをトキメキ状態の先生に渡したらどうなるのか???
やってみました。面白いでした。vv流石先生です!!( ̄□ ̄;)!!
という勢いで(いつもそれですね〔苦〕)書かせていただきましたバレンタイン創作です。

ゲームでの主人公は大切なのは気持ちだしね・・・といって
明らかにただ事ではない色でどくろが浮かぶ表現されてるチョコを人にあげようとするのもどうよ!?
ってカンジですが・・・受け取るのもある意味恐ろしい恋心??しーかーもッ傷心度下がるのもびっくりです。
まさに愛は味盲。(>_<)

もし自分が先生にあげるとしたらグランドピアノの形をしたチョコを送ってみたいですが(*´∇`*)vv
と、ちょこっと乙女心!?をくすぐる時期でありました。
そしてちかげ様・・・バレンタインとっくにすぎてて申し訳ありません。。・゚(´□`)゚・。わーん。




桜ありまさんから頂いた『ときめきメモリアルGirl's Side』の小説です。
おおお〜〜!ヾ(≧∇≦*)
氷室センセイに最悪本命チョコをあげると、こんな素敵台詞が!?(笑)
私もチョコは数パターンみてますが、本命の場合はどうしてもハートマーク飛びまくりなチョコを渡してしまいます。これもまた愛?(笑)
義理チョコあげた時のもまた素敵でしたv(笑)
ですが、氷室センセイ&主人公ちゃん可愛いvv
こう、桜さんの文章みてますと、2人がますますほんわかカップルに見えてステキです…(*´∇`*)
そして、ますますヒムロッチの魅力を感じてしまう私ですvv
桜さんがグランドピアノのチョコなら、私は指揮棒のチョコを…(長っ!)
桜さん、いつも素敵な小説をありがとうございますーvv

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