『博士〜、本当に完成したのですかぁ???』
 突然の知らせに、庭掃除をする手を止めて、綺麗に整えられた茶色がかったショートの髪がさらさらと
風に揺れた。見た目は17.8歳で賢そうな大きな瞳が女の子のように見えるが、彼はれっきとした男で
あった。
 そういっても、背は一応高いのだが足も腕も腰も女の子のようにか細いのでどこか守ってあげたくなる
ような雰囲気を持っているまだまだ少年である。
 彼が博士と呼んだ人物も見た目は20代後半に差し掛かろうかというくらいで、まだまだおじさんと呼
ぶにはもったいないくらいの人物であった。
 ただ、見た目はちゃんとしてればかっこいいのだろうが、今は生活感の溢れんばかりにしわの入ったワ
イシャツがその品位を失わせつつあった。
『はっはっは〜嫌だなぁ、ジョニー君。私を誰だか忘れたのかい?』
 博士はえっへんと言わんばかりに、両脇に手を当てた。ジョニーは慌てて両手で口を抑えて、可愛らし
く舌をぺろっとだし、慌てて自分の頭を軽く殴るような真似をしながら、
『すみません、博士。ほんと僕ってなんておっちょこちょいなんだろう。博士が偉大な科学者だというの
を知っていながら、こんな質問するなんて・・』
 と、恥ずかしげにうつむいた。すかさず、博士はジョニーの頭の上に大きな手で優しくぽんぽんとたた
きながら、
『まぁ、そこがジョニー君いいところじゃないかなぁ。私はそんなジョニー君の素直なところが好きだ
よ』
『博士・・』
 なにやら意味ありげなジョニーの熱い視線が博士へ向けられようかとしたとき、けたたましい音と共に
一人の人物が現れた。
『ちょっと、ジョニー。私の大事なドレスに染みがついてるじゃない!!あれほど丁寧に扱ってっていっ
たでしょ?これじゃあ、今日着られないじゃない』
 クルクルと金髪の愛くるしい巻き毛にシルクの白いリボンがそれまた可愛らしく頭の上に乗っけてやっ
てきたのは可愛いというのはあまりに失礼なくらい、これまた端正な顔の少女であった。
 年のころは16.7歳だろうか、肌の色が白く透き通っていてより一層美しさをかもしだしていた。ジ
ョニーはキャシーの怒鳴り声におびえながら、小さくなっている。
『ケインもまだそんな格好して・・今日は何の日だか忘れたの?』
 そう言って、少女はほっぺたを真っ赤にして怒った顔をした。博士ことケインはこれはただ事ではない
のだろうと察し、困ったなぁという顔をしながら、
『キャシー、忘れるわけないだろう?今日は・・そう、今日は・・』
 考えながら、五分が過ぎようとしていた。言われてみれば、今日はやけにキャシーの声がしないなとは
思っていたものの、今日のキャシーは普段よりも念入りに身の回りを綺麗にしていた。
『ほらぁ〜、忘れてるじゃない。今日は私とケインは親族の前で正式に婚約発表をする日なのよ?だか
ら、ケインもちゃんとした正装に着替えてちょうだい』
『・・キャシーそのことなんだけど・・っん!!』
 ケインの言いかけた言葉を塞ぐかのようにキャシーは突然キスをした。あっけにとられながらケインが
目をパチクリとしていると、
『私はケインのお嫁さんになるって、産まれたときから・・いままでずっと・・』
 いつもは強気なキャシーの瞳からは大粒の涙が溢れてきた。
『なのに・・。ケインはやめようって・・私に言うの?ずっとずっと・・私は』
『・・キャシー・・』
『私は・・ケインがこんなに好きなのに・・』
 キャシーが見せる初めての女らしさに、戸惑いと動揺を隠せないケインの姿に、ジョニーはついにいた
たまれない気持ちでいっぱいになって、
『僕は博士の側にここ一年ずっといて、お嬢様が博士を好きな気持ちはすごく伝わりました。・・だか
ら、博士の今の実験が成功したらここを辞めようと思ってたんです』
 ジョニーの突然の辞める宣言に、まさに顔面を蒼白させながら、それでいてキャシーのことも放り出せ
ずにケインはあたふたとするばかりであった。
『だから、今日実験が成功したんだって聞かされて、本当は心の中で迷いました。でも・・、これで本当
にさようならですね、博士』
 淋しげに去り行くジョニー。
『ちょっと待った、ジョニー君!!』
 どたんばになって、さすがにケインも意を決した様子でキャシーの瞳から涙を優しくすくうと、
『キャシーごめん。キャシーと同じように私は自分の気持ちに嘘はつけないんだ』
『ケイン・・』 
 そういうと、ズボンのポケットから一粒の錠剤を取り出して口の中に放り込んだ。ごくりという音と共
ケインの体から白い煙が立ちこめた。
『うっ〜』
 苦しげに胸を抑えるケインの姿を見て、我を忘れてジョニーは駆け寄ってきた。
『博士・・まさか今飲み込んだのは!!』
『はっは。ジョニー君には・・ばれちゃったかなぁ〜。・・今日完成し・・たばかりの試供品なんだ。で
も、・・成功したこ・・とがない・・んだ』
『どうして?!あの薬を僕にじゃなくて?!自分が・・博士が飲んだんですか?!』 
 だんだんと、うつろになっていく意識の中で、ケインは呟いた。
(・・私が一番好きだったのは・・)

『ケイン、目が覚めた?』
 深い眠りから目覚めたケインがベッドから身体を起こすと、
『あれから、一ヶ月も昏睡状態で、どうだケイン俺の顔がわかるか?』
『あぁ〜、はっきりとルイスだろう・・』
 ルイスと呼ばれた人物は栗色がかった髪が、この前観みときよりもだいぶ長くなってるなぁと、ケイン
は一ヶ月前のルイスを思い浮かべていた。この前会ったのはいつだったろう、あれは実験が完成する前の
晩だったなぁ・・ケインの頭の中にはルイスと交わした会話の数々が一言一言浮かんできた。
 そして、記憶が鮮明に思い出されていく。ケインは自分の作った薬を自分で飲んだのだ。長年の夢だっ
た、あの薬を・・。ベッドから勢い良く立ち上がろうとするケインを、たくましい太い腕でルイスは抑え

『ケイン慌てなくてもいいんだよ、・・実験は成功したんだよ』
『・・成功した・・のかい?』
『自分の身体を見てごらん、ケインは立派な女になれたんだよ』
 そういわれて、目線を落とすと今まで自分の胸にはなかった膨らみと、そして、ほっそりとした手足が
寝巻きから現れていた。
 『私はちゃんと女になれたんだね。ルイス、これで晴れて私たちは結婚できるんだね』
 ケインは喜びで胸がいっぱいにはちきれそうだった。
『・・あぁ、そのことなんだけど。俺はやっぱり男しか好きになれないみたいだ、ごめんなケイン』
 そう言って、病室を後にするルイスが開けた扉の向こうには、ケインのことを好きだったジョニーの姿
があった。ジョニーは幸せそうに、ルイスの横にぴったりと寄り添っていた。
『紹介するよ、これが今の俺の恋人のジョ二ーだ。ケインがいない一ヶ月は俺には地獄のようだったとき
に支えてくれたんだよ』
『・・博士、僕は今ルイスさんがいないと生きていけないくらいルイスさんが好きなんです。だから、悪
いけど、ルイスさんのことは諦めてください』
 以前と同じくらいジョニーの可愛らしい笑顔が、今のケインには憎らしい小悪魔のような微笑みに見え
たとき、病室にゆっくりとキャシーの姿が現れた。
『ケイン、私はあなたを男に戻すためにこの一ヶ月必死で実験にあけくれてきたのよ?・・今日やっと、
その実験の成果が試せるのね。さぁ、この薬を飲んで?』
 そう言って、キャシーの手にはドライアイスをいれたように、もくもくと白い煙をだしたどぶ色に近い
液体の入ったコップが握られていた。
『・・どうしたの?飲ませてあげましょうか?』
『こんなはずじゃ〜』
 ケインの実験はまだま続くのであった。


おわり




これは、私の誕生日プレゼントとして、風雅さんが書いてくれた小説です。

風雅さん。小説、ありがとうございました! これまたすごい大どんでん返し(苦笑) ぶっ飛びました(^-^;)
私も負けずに、こーゆー小説を書きたいデス!

本当に、ありがとうございました!!



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