スウィート・ホーム×スウィート・トラップ

作 桜 ありま



「・・・・・・」
「香音」
「・・・・・・」
「香音!!」
「・・・・・・」

倫太郎が、何度呼びかけても、居間のソファに座った香音は答えなかった。
何故自分が不機嫌なのか、目の前の愛しい人は分かってないらしい。
しかし香音に呼びかける倫太郎の表情は懸命で・・・その顔を見ているだけで、許してしまいそうになりかける、が、これを許す事はできないと、心の中で念じて顔を背ける。

「香音・・・」
自分から、初めてここまで拒絶されたからだろうか?
まるで雨の中の捨て犬のような目で見られて居る事をその声音から感じ取り、香音の理性と決意は脆く崩れ去る。

くぅ〜可愛いぜ!!倫太郎!!
と、前言撤回して抱きしめようとしたその瞬間。
倫太郎に使える執事平田の声が聞こえた。

「旦那様、あまり気にしない方が宜しいですよ」
「しかし、香音がこんなに怒ってるのは初めてで・・・」
「ほおって置けば、機嫌直して下さいますよ、香音さまは、旦那様にメロメロですし」
「そ、そうかな」

メロメロ、という言葉に照れたように倫太郎は平田に答える。

ガバリ。
香音は、勢いよく振り返って、倫太郎に抱きついた。

「か、香音っ!!」
愛の告白を交わした今、香音は所構わず倫太郎に触れる権利を得た。
しかし、倫太郎の方はまだなれないらしく身体を強張らせる。が、前のように「愛の抱擁」を拒絶される事はなくなったので確実にスッテップアップしていると喜んでいる香音。

「たしかに、確かに俺は、倫太郎にメロメロだ、それは認めるよ・・・」
はがいじめにされながら、香音に耳元で囁かれて顔を真っ赤に染めた倫太郎。

「だけど、なんで平田!!お前が居るんだ!?」

ビシィィ。
そう人差し指を指されても、顔のわりには落ち着いている執事平田はにこにこと笑って動じない。

日本を二人で、離れて・・・数週間。
倫太郎の養子優希も無事高校を卒業し、倫太郎の家を出ていった。
そんな倫太郎に愛のプロポーズをし、受けてもらって。
香音の留学先に二人で家を借りて、二人で暮らすはずだった。

そんな香音の夢(妄想)を打ち砕いてくれたのは、意外な伏兵!執事平田!!!だ。

そう、計画では誰も知るものがいないこの音楽の都ウィーンで二人スイートな生活をする事
・・・そう香音の夢は全て二人で!(強調)であった。
しかし勿論倫太郎の専属の執事である平田は、此処にまでも付いてきた。

「でも、香音・・・平田君は私の執事で・・・いつも居る事が当たり前で、掛けがえのない人なんだ」
倫太郎は、そう、平田をフォローするが逆効果だった。
ある意味それは香音にとって凄く・・・羨ましく嫉妬を禁じ得ない台詞である。

倫太郎が自分を選んでくれた今、香音はもう倫太郎に向かって遠慮する気も余裕も無い。
我侭ぶりが増大していた。
香音は、倫太郎を抱く手に力が入る。
「倫太郎・・・じゃ俺の事は?」
平田と倫太郎は、三年弱の付き合いである。
では学生時代からの付き合いで恋人でもある俺は?

子供のように張り合う香音。

「勿論・・・す、好きだが」
ちらりと、平田の方を見て恥ずかしそうに俯く。

「じゃあ、平田と俺とどっちを取るんだよ?」

倫太郎は、真っ赤になるが・・・困ったように眉を寄せた。
倫太郎は優しい。
いくら香音を好きだからといって執事である平田を簡単に切り捨てられる性格ではない。
そういうところも香音が大好きな倫太郎の一面。
困ると分かっていても・・・いや困ると分かっているからだろうか?
ついつい我侭を言ってしまう香音。

「あまり気を落とさないで下さい旦那様、では暫くの間、休暇と思ってお暇を取らせて頂きます」

そう、主人の危機を理解して、出来る執事平田は、自分から休暇を願い出た。
しかしその表情は何時もと変わらずにこやかだ。
何か余裕たっぷりのようで、香音は少し悔しい。
状況的にみて・・・香音劣勢。
自分の荷物をまとめようと部屋から出て行こうと、平田は一礼した。
「あ、手伝うよ平田君」
そういって、倫太郎は、香音の腕からすり抜けて平田の元へといってしまう。
香音は一人、ソファにふてねする。

・・・勝者!!平田。

しかし、どんなにかっこ悪かろうと、香音はこの我侭だけは・・・どうしても譲れなかった。

*★*

「すまない、平田君・・・香音の機嫌が直るまでだから・・・」
倫太郎はすまなそうに、平田に告げる。
平田は倫太郎の申し出をありがたく辞退して、一人てきぱきと荷物をまとめた。
元からそんなに荷物は無いし、自分の立場をわきまえている。

「ホテルは私の方で取っておくから、勿論費用は私が持つからそこに泊まっていてくれないか?」

倫太郎がそう言いながらおろおろと、平田を見ている。
何か出来る事は?と、思いながらうずうずしている目の前の人のいい雇用人の心情を、理解していた平田は話し掛けた。

「いえ旦那様・・・本当にお気になさらないで下さい」
「しかし、平田君には本当に失礼な事を・・・」
そういいよどむ倫太郎の姿を見て、平田は全く気にしてないように微笑んだ。
「香音様はああ見えても我慢強い方ですから早くは帰って来る事は出来ないでしょうが・・・旦那様はお体にお気をつけてお過ごしください」
「あ、ああ」
「あ、香音様には喉に良いお茶を戸棚の二番目に入れてますので・・・」
後半のまるで旅行で息子を一人残す母親のように告げる平田の注意点によって。

前半の意味ありげな言葉に・・・・倫太郎は気付かなかった。

*★*

「怒ってる?」
「・・・少しだけ」
平田を送り出し香音のいる居間へ戻ってきた倫太郎はちょっと不機嫌だった。
「なにも、平田君を追いださなくったっていいじゃないか・・・」
「だって、倫太郎・・・平田がいたらこんなことすると怒るだろう?」
そう、全然反省せずにいいながら香音は倫太郎に素早くキスをした。
油断もすきも無い。
「こ、こんな事って!」
抱きしめるのとは違ってそれ以上の事については全く慣れていない倫太郎。
家の中何時なんどき家事をしている平田が現れるか分からないので、かなりの忍耐を強いられてきた香音。
香音にとっては、誰が見ていようと大好きな倫太郎に触れるのはかまう事ではないが。
保守的な倫太郎にとってはこのような行為を人にみられる事は我慢できないことであった。

だから

「すぐにでも抱きしめてキスしたいと思っても。お預けなんて倫太郎・・・・おれにとっては地獄だぜ」
「だからって・・・っ」
慣れた手つきで、倫太郎を押し倒してゆく香音に小さく抗議の声を上げる。
が、香音は全く気にした様子も無く倫太郎にキスを繰り返す。
「・・・嫌なのか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「嫌だったら・・・止めるけど?」
そう、香音からいわれ、耳まで真っ赤な倫太郎はしょうがないな・・・というように目を閉じた。

「・・・・嫌じゃない・・・ただ、恥ずかしいだけだ」

香音は満足したように微笑んだ。

*★*

香音が目を覚ますと、隣に寝ていたはずの倫太郎の姿が無い。
適当に香音は服を着ると、厨房から音がするのを聞いた。
そこには、倫太郎がせっせと朝食を作っている。

・・・そう言えば平田、居なかったんだっけ。
おきぬけの頭が段々と正常に作動するまでに時間が掛かった。
幸せボケしているのかもしれない。

まるで新婚生活!
の見本のようなシュチュエーションに香音は自然と頬が緩んだ。

「おはよう、倫太郎」
「おはよう香音・・・こうされると料理が出来ないんだが」
後ろから調理中の倫太郎に抱きつくと、倫太郎は予想通り抗議の声をあげた。
「平田君が居ないんだからこれからは私が・・・食事の準備をしようと思って・・・・香音は学校だろ?」
どうやら自宅で会社と連絡を取り合っている倫太郎が、家事をする事を決心したらしい。
勿論、香音は手伝う気でいるが・・・

「裸エプロンじゃないんだな〜倫太郎」
「何馬鹿な事言ってるんだ、香音!ほら、座って待っててくれ」

後は、サラダだけだったようで、倫太郎は野菜を刻んでいた包丁を振り上げた。
・・・どうやらからかい過ぎたらしい。
あんなことまでやっているというのに・・・倫太郎の顔は耳まで真っ赤になっていた。
そんな倫太郎をにこにこと見つめながら香音は倫太郎が準備した食卓に着いた。そこに出来上がっていたのは見た目も麗しいサンドウィッチとコーヒーとオムレツ。

新妻の初の手料理。
家庭科の授業が無かった学校だった為、長い付き合いだったが今の今まで倫太郎の手料理は食べた事の無かった香音は感嘆のため息を洩らす。

出来上がったサラダを二つ持ってやってくる倫太郎が香音の真向かいの席に座る。
「あまり、料理なんてしないから味は保障しないぞ」
そんな事を言われても、香音にとって倫太郎が作ってくれたものならば、味は二の次三の次・・・
「いただきます」
と、向き合い食べ出す二人。

ぱくり。

香音は倫太郎の手料理を食べてしまった。

はっきりいって

ま・・・・ ま  ず  い

美食家の香音にとっては、耐えられない味だった。
二の次三の次などとのフォローは遥か彼方に飛んでいくほどの味。
一瞬気を失いかけながらも手に握ったフォークを落とさなかったのはさすが香音である。

ちらり、と正面にいる倫太郎の動作を香音は見た。
倫太郎は何の躊躇いも無く料理を食べている。
その動作は本当に『普通の料理』を食べている仕草だ。
見つめられている事に気がついて倫太郎が訝しげに香音を見つめ返した。
「香音? やはり口に合わないか?」
「いや、倫太郎うまいよ」

自分の声は震えていないだろうか?
そう、脳内で考えながら香音は完璧な笑顔を倫太郎に向けた。
「そ、そうか・・・良かった」
そうほっとしたように倫太郎が香音に向ける笑顔は可愛くて・・・

「これから毎日倫太郎の手料理が食えると思うとホンッとオレは幸せだぜ」

香音は自分の首を占めることとは分かっていてもそう倫太郎に言うしかなかった。

香音の苦悩はこうして
最高で・・・・そして最低な倫太郎の朝食から幕をあけた。

*★*

さり気なに香音より一枚上手の執事平田。
の予言は的中。

どうやら倫太郎は超が付くほどの家事音痴だったらしい。
平田を雇ったのも仕事が忙しい理由だったと思っていたがどうやら違ったようだ。
洗濯をすれば服を破き・・・
掃除をすれば何故か高いもの程壊れる確率が高くなり・・・

しかし
倫太郎と音楽以外には頓着しない香音は物が壊れたぐらいではめげなかった

だが我慢強い香音の辛抱は倫太郎の手料理で幕を閉じる。
香音は知らなかったが倫太郎は美味しい料理は美味しい料理として
まずい料理はそれなりに食べられるといった特技を持っていた。

平田が思っていたよりも香音は我慢強く
その我慢は体が資本の声楽を学んでいる身としては破格の体調不良に悩まされるまで続く。
ついに病院行き直前となってしまった香音は前面降参した。

倫太郎の取ったウィーン五つ星のホテルにて
スウェーデン貴族にヘッドハンティングされていた平田は
呼び戻され、見事倫太郎の執事に復帰し・・・

香音は無事甘い罠に翻弄される日々を終えたのだった。

●●あとがき●●

本宮さんは家事音痴!!
という設定を勝手に作ってしまいました〜
やはり優希を育てる為にわざわざ雇うという事は
仕事が忙しくというよりもかなりの家事音痴だと
勝手に捏造。(^_^)
って言うかさり気なに十五禁???ぐらい???
になった事もお詫び申し上げます<(_ _)>
この小説はちかげ様のお心の中で楽しんでやってくださいませ〜〔笑〕




桜ありまさんから頂いた『プリンスメーカー』の小説です。
うっは〜〜!!ヾ(=^▽^=)ノ
香音×本宮小説!! しかも、スウィートラブラブvv
お二人の新婚旅行生活が、今!!(笑)
ここで、香音先生の留学先がウィーンに決定いたしました(笑)
それにしても、二人のラブラブぶりがもう・・・(*´∇`*)
香音先生ったら、オ・ト・ナ♥(笑)
そしてスウェーデン貴族にヘッドハンティングされてる平田君も、かなり優秀な執事さんになって…(笑)
本編より、みんな良い味出てて読んでいてニヤリとしてしまいました♥
桜さん、素敵プリンスメーカー小説ありがとうございますー♥


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